2022年3月末で中島淳前教授が退任され、4月より診療科長をさせていただいています。ここ10年で、当科が伝統的に得意としてきた低侵襲な胸腔鏡手術に、さらに精密な縮小手術を可能とするVAL-MAP法、より自由な胸腔内操作を可能とするロボット支援(DaVinci)手術や、さらに傷の小さい単孔式胸腔鏡手術が加わり、患者さんの身体への負担がすくない手術法が洗練されてきています。
一方、手術の安全性を一層強化するための取り組みとして、区域切除以上の肺切除(肺門の血管操作があり、一歩間違えると大出血につながり得る手術)では全例、呼吸器外科専門医2名が手術に加わることにしています。また気胸などの手術においても、必ず呼吸器外科専門医が責任者となって手術を行うこととしています。呼吸器外科の手術に限らず手術にリスクはつきものですが、多くの患者さんに、できるだけ安心して手術を受けていただけるよう、引き続き努力してまいりたいと思います。
肺移植については、ここ3年ほど、国内で最も多くの症例を手掛けており、年間30-40件の肺移植をコンスタントに実施でするアジアでも有数の肺移植実施施設となっています。肺移植は呼吸器外科医だけでできる医療ではなく、非常に高度なチーム医療が必要です。多職種で構成される東大肺移植チームは、短期間に数多くの経験を重ねることで、まさにエキスパートと呼べるレベルに達していると自負しています。特に強力な免疫抑制療法を施す肺移植後の管理には欠かせない内科的な側面を強化するため、この3年は神奈川県立循環器呼吸器病センターの支援を受け、呼吸器外科内に呼吸器内科チームをつくり、安定した入院・外来患者管理に取り組んでいます。都内唯一の肺移植施設として、こうして命を担う現場に信頼できる仲間たちとともに立てることを、大変誇りに思います。
こうした肺移植の技術と経験を生かした高難度手術にも積極的に取り組んでいます。たとえば他臓器に浸潤した肺がんや気管支形成・血管形成が必要な症例、高度呼吸不全に対する肺移植以外の手術(いわゆる呼吸不全外科)は、もともと胸部外科として同じ医局だり緊密な関係にある心臓外科の協力の元、必要に応じて人工心肺やECMOを使用し、われわれが最も得意とする領域の一つとなっています。
今後も引き続き努力を重ね、「自分や家族が受けたい医療」を一つでも多く実現できるよう頑張っていきたいと思います。
北海道札幌市出身
1999年 京都大学医学部卒業
2003-08 年 カナダ・トロント大学大学院でPh.D取得
2008-2011年 Toronto General Hospital にて胸部外科・心臓外科・肺移植臨床フェロー
2011-2015年 京都大学医学部附属病院呼吸器外科助教、Toronto General Research Institute Affiliate Scientist(兼務)
2015年- 東京大学医学部附属病院 呼吸器外科 講師
2020年- 同 臓器移植医療センター 准教授
外科専門医,呼吸器外科専門医。国際心肺移植学会 pulmonary council メンバー、肺移植後慢性拒絶CLAD working group co-chair。
2010年、トロント大学から、肺移植後慢性拒絶のあらたな概念である restrictive allograft syndrome (RAS)を提唱。2012年、京都大学で、気管支鏡下肺”マッピング”技術、virtual assisted lung mapping (VAL-MAP)を開発。2016年9月からのVAL-MAPおよび2019年2月からのVAL-MAP2.0の先進医療、多施設共同研究では研究責任者(PI)を務めた。
臨床の専門分野は呼吸器外科全般、特に肺移植、胸腔鏡下低新侵襲縮小手術。主要研究テーマは上記VAL-MAP, 肺移植後慢性拒絶。
著書:「流れがわかる学会発表・論文作成How To改訂版―症例報告・何をどうやって準備する?」「流れがわかる英語プレゼンテーションHow To―国際学会発表・世界に伝わる情報発信術指南」「流れがわかる研究トレーニングHow To―医系大学院・研究留学、いつどこで何をする?」「なぜあなたは論文が書けないのか」「なぜあなたの研究は進まないのか」「なぜあなたの発表は伝わらないのか」いずれもメディカルレビュー社。「なぜ臨床医なのに研究するのか?」中外医学社。「仮想気管支鏡作成マニュアル 迅速な診断とVAL-MAPのために」医学書院。「胸部外科レジデントマニュアル(医学書院)」の責任編集を担当。