VAL-MAPによる胸腔鏡下精密縮小手術

気管支鏡バーチャル3D肺マッピング(VAL-MAP)

<VAL-MAPとは?>

微小肺病変に対する外科的診断・治療に際して行われる術前CTガイド下マーキングは、空気塞栓による心筋梗塞・脳梗塞、出血、気胸の合併症が報告されており、部位による制限も多くありました。これに代わる方法として筆者(佐藤雅昭)が京都大学(当時)で2012年に開発したのが、Virtual Assisted Lung Mapping (VAL-MAP)法です。高解像度CT画像を基に3次元再構成したバーチャル気管支鏡をガイドにして、気管支鏡下に少量の染料(インジゴカルミン)を肺表面に吹き付け印をつけます。複数個所(2-6箇所程度)の印を同時につけることで、可塑性に富む「肺」という臓器の表面に角度、相対的距離といった位置情報を与えることができるため「マッピング」と呼んでいます。

図1
図1

図1 VAL-MAPにより肺に描いた「地図」 (A)CTで認められた肺癌疑いのすりガラス様病変に対して(B)3Dバーチャルイメージで地図を設計、それぞれのマーキングポイントに至る気管支をバーチャル気管支鏡で計算して、(C)のような4点のマーキングを頼りに右肺S8a亜区域切除術を施行。過不足のない切除を行った。手術時間は1時間半程度、診断は肺癌(腺癌)だった。(文献1より一部改編し許諾を得て掲載)

当院では手術の前日、または当日朝に、内視鏡室で喉に局所麻酔をして気管支鏡を行います。胃カメラに似た処置ですが、点滴から鎮静薬を少量入れて行うため、患者さんはほとんど処置のことを覚えておらず、苦痛の少ない処置が可能です。約20分ほどの間に、目標とする気管支から1.8mm径の細いカテーテルをいれ、その先端が胸膜(肺の一番外側)に達していることをレントゲン透視で確認して、1ccのインジゴカルミン(青い色素)を注入します。この色素は広く胃カメラなどでも使用され、食品添加物にも用いられる安全なものです。この処置が終わったらCTを撮影し、実際に肺のどこに印がついたかを確認し、さらにこれを3次元に構成して最終の手術計画をたてます。こうすることで、印の実際の位置が多少計画とずれていても、この段階で手術計画を修正することができるため、VAL-MAPの高い精度を維持することができます。VAL-MAPのまれな合併症(約4%)として気胸がありますが、通常ごく軽微なものであり、これまで治療が必要だったことはありません。その他の危険性、合併症については担当医にご相談ください。

図2
図2

図2 (A)バーチャル気管支鏡、(B)VAL-MAPに使用するカテーテル、(C)実際の気管支鏡写真と目標気管支へのカテーテル挿入、(D)レントゲン透視でのカテーテル位置の確認。

図3
図3

図3 肺にみつかった小さな2つのすりガラス病変。3か所のマッピングを行い、肺部分切除を施行。手術時間は30分程度、いずれも早期の肺腺癌だった。(文献1より一部改編し許諾を得て掲載)

この方法が特に有効と思われるのは、胸腔鏡を用いた手術では指で触れて確認することが難しい小さな病変や、CTですりガラス様陰影を呈するやわらかい病変、また確実な切除マージンを確保した過不足のない切除を必要とする手術などです。
VAL-MAPのよい適応と考えられる手術・病変
○原発性肺癌が疑われる小さなすりガラス様病変(ground glass nodule)
○小さな転移性肺腫瘍
○複雑な区域切除
○葉間にまたがり、切除マージンの確保が重要なすりガラス様病変
○胸膜癒着が予想され、肺部分切除・区域切除が必要な場合

VAL-MAPは従来のマーキング法を超えて、胸腔鏡下の精密縮小手術(肺部分切除、区域切除)を可能とする次世代の手術ナビゲーションシステムであり、世界からも注目されています。VAL-MAPを用いた手術の有効性、再現性を検証するmulti-institutional lung mapping study (MIL-MAP) Studyが日本国内の20近い施設で進行し、2016年4月までに500件の症例集積がなされ、高い有効性と安全性が示されました。結果は下記の論文で公開されています(オープンアクセス)。

Sato M, Kuwata T, Yamanashi K, Kitamura A, Misawa K, Imashimizu K, Kobayashi M, Ikeda M, Koike T, Kosaka S, Fukai R, Sekine Y, Isowa N, Hirayama S, Sakai H, Watanabe F, Nagayama K, Aoyama A, Date H, Nakajima J. Safety and reproducibility of virtual-assisted lung mapping: a multicentre study in Japan. Eur J Cardiothorac Surg. 2017 May 1;51(5):861-868.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5400021/

<先進医療を経てVAL-MAPが保険医療として実施可能となりました>

2016年9月から2017年7月まで,当院が主施設となり全国17施設で実施された先進医療『微小肺病変に対する切除支援気管支鏡下肺マーキング法の非対照非盲検単群試験(臨床試験登録番号:UMIN000022991)』を経て,現在インジゴカルミンを用いたVAL-MAPは保険診療として実施可能になっています(2018年3月8日付,関東信越厚生局東京事務所からの通知による).これにより,全国のどの施設でも,この方法を用いて手術中同定困難な肺内小病変の切除を行うことができるようになりました.

尚,この先進医療の結果は2018年4月30日にアメリカ,SanDiegoで行われた米国胸部外科学会(AATS)で発表され,また論文としても間もなく発表される予定です.

Sato M, Kobayashi M, Kojima F, Tanaka F, Yanagiya M, Kosaka S, Fukai R, Nakajima J. Effect of virtual-assisted lung mapping (VAL-MAP) in acquisition of surgical margins in sublobar lung resection. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018 (in press).

<電磁気誘導気管支鏡(Electromagnetic Navigation Bronchoscopy)を用いたVAL-MAP>

2013年以来行われてきたVAL-MAP臨床試験の延長として,当院では電磁気誘導気管支鏡・superDimension (Medtronic社製)を用いたVAL-MAPの臨床試験を行っています.superDimensionはCT画像データを基に 3D 仮想気管支画像を生成し、病変部までの経路プランニングを行った後、電磁場を利用して肺の末梢の目標地点近傍まで気管支鏡(処置具含む)をリアルタイムに誘導する肺生検のための方法として2016年日本ではじめて薬事承認された機器です.従来のバーチャル気管支鏡を使った気管支鏡手技を,地図を見ながらの自動車運転に例えるならば,電磁気誘導気管支鏡はカーナビを使った運転に相当します.当院では,superDimensionをVAL-MAPに応用し,手術室で全身麻酔をかけたあとで気管支鏡下マーキングを行う試みを行っています.これまで局所麻酔下,鎮静下に行ってきた術前のVAL-MAPを,手術室入室後・全身麻酔下に行い,さらにVAL-MAP後のCTを省略できる可能性があります.手術を受ける患者さんの身体的負担をさらに減らしつつ,精密な胸腔鏡下手術を実現するのが目標です.

図4 電磁気誘導気管支鏡・superDimensionを用いたVAL-MAPの様子.リアルタイムナビゲーションで気管支鏡を目標地点に誘導する.

<マイクロコイル併用により深部情報を加味した次世代VAL-MAP:VAL-MAP 2.0>

前述のようにインジゴカルミンを用いたVAL-MAPは保険診療として実施可能となりましたが,同時に先の先進医療では,切離ラインが深部に及ぶ場合には,十分な切除マージンが確保できない可能性が高まることが新たに分かりました.この部分を強化すべく新たに開発したのが,気管支鏡下に色素マーキングを行うと同時に,気管支内に血管塞栓用のマイクロコイルを留置し,手術中はX線透視も活用して3次元のマッピングを基に肺を切除する次世代のVAL-MAP(VAL-MAP2.0)です.これにより,従来のVAL-MAPを用いても確実な切除がむずかしかった病変に対しても,さらに精度の高い切除が可能になると期待されます.この方法は当院での特定臨床研究を終了した後,新たな先進医療として多施設での臨床試験をスタートする見込みです.

図5 マイクロコイル併用VAL-MAP(VAL-MAP 2.0)の概念図(上)と実際の症例(下).従来のVAL-MAPでは対応が難しいこともあった深部の病変に対して,さらに精度の高いマッピングと手術が可能になると期待される.

VAL-MAPについての問い合わせ、連絡先:SATOM-SUR@h.u-tokyo.ac.jp

参考文献
1)Sato M, Omasa M, Chen F, Sato T, Sonobe M, Bando T, Date H. Use of Virtual Assisted Lung Mapping (VAL-MAP), a bronchoscopic multi-spot dye-marking technique using virtual images, for precise navigation of thoracoscopic sublobar lung resection. J Thorac Cardiovasc Surg.2014;147(6):1813-9.
2)Sato M, Aoyama A, Yamada T, Menjyu T, Chen F, Sato T, Sonobe M, Omasa M, Date H. Thoracoscopic wedge lung resection using virtual-assisted lung mapping. Asian Cardiovasc Thorac Ann. 2015;23(1):46-54.
3)Sato M, Yamada T, Menju T, Aoyama A, Sato T, Chen F, Sonobe M, Omasa M, Date H. Virtual-assisted lung mapping: outcome of 100 consecutive cases in a single institute. Eur J Cardiothorac Surg. 2015;47(4):e131-9
4)佐藤雅昭.小型肺癌の術中局在同定法―術前マーキング法とvirtual-assisted lung mapping―肺癌. 2014;54 (6):835-42.