経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)

心臓の出口に位置する大動脈弁は心臓から送り出した血液を逆戻りさせない役割がありますが、動脈硬化やリウマチ熱などの影響で硬く狭くなると大動脈弁狭窄症になります。重症の大動脈弁狭窄症は放置すると数年の内に狭心症、心不全、失神、突然死のリスクがあるため手術が必要です。

大動脈弁狭窄症に対する標準治療は、従来行われてきた大動脈弁置換術であり現在も同じです。それは前胸部を切開し人工心肺装置を用いて心臓の動きを止め、大動脈弁を切除して人工弁を縫い付ける方法です。しかし、人工心肺装置を用いた心停止下手術は体に負担も大きく、脳神経障害や心肺機能障害、出血、感染などの合併症のリスクを伴う為、高齢者や他の慢性疾患(呼吸障害、肝腎機能障害、ステロイド治療中など)をお持ちの場合、心臓手術や食道手術で開胸歴のある場合には手術のリスクが非常に高くなります。

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)は、その様な人工心肺下手術のリスクが高い患者さんを対象に、2013年に国内導入された新たな治療法です。ウシの心膜を用いた人工生体弁を畳んでカテーテルの中に収め、足の付け根または左胸に小さい傷を置き、カテーテルを用いて足の血管または心臓の筋肉を通して大動脈弁の位置に人工弁を運び患者さん自身の大動脈弁の内側で拡げて留置する方法です。この治療は人工心肺を用いて心臓を止める必要がなく、前胸部の大きな傷もできない為、体にかかるストレスが少ない低侵襲治療と言えます。経過が順調であれば術後入院期間は、従来の人工心肺下大動脈弁置換が2~3週間であるのに対し、TAVI後は1~2週間で退院可能です。

一方で、TAVIはミリ単位の正確なカテーテル操作が必要であり、血管損傷等の問題が生じた際には迅速な外科手術のバックアップが必要となることから、心臓外科、循環器内科、麻酔科、心臓エコー診断医、臨床工学技士、看護師、放射線科技師などが協力してハートチームとして治療に臨みます。

当院では全診療科が対応可能な総合病院であり、他院で治療が困難な患者さんも多く紹介されます。患者さん一人ひとりの持病に対して専門診療科のサポートの元、心臓疾患についてハートチームで十分に検討を重ねた上で、最適な治療を提供いたします。

tavi

 

講師・東京大学医学部附属病院 医工連携部 副部長

心臓血管外科専門医
外科専門医
外科学会指導医
移植認定医
植込型補助人工心臓実施医
胸部大動脈ステントグラフト指導医
腹部大動脈ステントグラフト実施医
経カテーテル的大動脈弁置換指導医